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貸室・設備等の不具合による賃料減額の考え方 2024年4月号

2024.09.12

ケース

賃貸しているアパート(家賃:月額20万円)において、入居者である賃借人から

「お湯が出なくなり、お風呂に入れない日が何日も続いているので、状況の

確認と必要に応じて修理をしてほしい」との連絡を受けました。

凍結したことで一時的にお湯が出なくなったものと考えられる、との調査報告

がありました。その後、賃借人から、令和6年1月分の賃料につき、「お風呂が

使えなかった“4日分”の家賃を減額してほしい」との請求を受けたのですが、

どのように対応すればよいでしょうか?

 

[回答]

今回のケースは、大寒波による給湯管の凍結が原因であるため、「賃借人の

責めに帰することのできない事由」
により、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益できなくな

った」と考えられ、改正後民法(令和2年4月1日施行)611条1項により、使用

及び収益ができなくなった部分の割合に応じ具体的な減額金額等は、後記2

の判断基準等を参考に、賃借人との話し合いによる合意(賃料減額に代えて

「4日分」の銭湯代相当額を支払う合意をすることも考えられます)をもって

解決することが、基本的な対応になるでしょう。

 

[解説]

1.改正後民法における変更点
民法611条1項は、民法改正(令和2年4月1日施行)により、賃借物の一部が

「滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」

において、それが「賃借人の責めに帰することができない事由」によるもの
であるときは、賃料はその使用及び収益をすることができなくなった部分の

割合に応じて、「減額される」との内容に変更されました。

本改正による大きな変更点は次の2つです。

 

(1)改正前民法611条1項が賃借物の一部の「滅失」を減額の対象としてい

たのに対し、滅失以外の事由によるものも含めて賃借物の一部が「使用及

び収益をすることができなくなった場合」に賃料減額の対象が拡張されま

した。賃貸住宅において、「使用及び収益をすることができなくなった場合」

とは、①物件の物理的な破損だけでなく、設備の機能的な不具合等による

場合も含めて、物件の一部が使用できず、②その一部使用不能の程度が、
社会通念上の受忍限度を超えており、通常の居住ができなくなった場合、と

解釈されています(民間賃貸住宅に関する相談対応事例集〈30年3月〉:賃貸

借トラブルに係る相談対応研究会。以下、「平成30年事例集」といいます)。

 

(2)改正前民法611条1項が「賃料の減額を請求することができる」と規定

していたのに対して、賃料が「減額される」と改正されたことにより、賃

借物の一部が滅失その他の事由で使用収益できなくなった場合、賃借人の

責めに帰することのできない事由によるものであるときは、賃借人から賃

貸人に対して、賃料減額請求をせずとも当然に賃料が減額されることにな

りました。

 

2.減額される賃料額の判断基準
現在のところ、減額される賃料割合について、裁判例の蓄積等によって、

いまだ明確な基準が示されていないことから、実務上、賃料の減額割合の

目安として、専ら「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン

〈令和2年3月19日〉(公財)日本賃貸住宅管理協会」(以下、「本件ガイドラ

イン」といいます)を参考にして協議が行われています。
本件ガイドラインでは、貸室・設備に発生した不具合の状況に応じて、

「A群」(電気が使えない、ガスが使えない等)と「B群」(トイレが使えな

い、風呂が使えない等)の区分が設けられており、該当する不具合の状況

ごとに目安となる賃料減額割合及び免責日数(賃料減額割合の計算日数に

含まない日数)が定められています(図参照)。
例えば、本件での不具合は「風呂が使えない」状況であり、「B群:風呂が

使えない・賃料減額割合10%、面積日数3日」を基準に日割計算を行う

ことになります。
その結果、月額賃料20万円×賃料減額割合10%×(お風呂が使えなかった

4日―免責日数3日)÷月31日=約645円(1日当たり)が目安になります。

 

 

 

 

なお、「平成30年事例集」では、賃料減額等の協議・決定に当たって、

考慮要素として、

①使用不能な期間(一部使用不能の程度が社会通念上の受忍限度を超えて、

通常の居住ができなくなったときから修繕が完了するまでの期間)
②使用不能の程度(一部使用不能の程度が使用に不便があるという程度を

超えていること)
③使用不能な面積(使用できない部分の面積が明らかである場合には、

修繕が完了するまでの日割家賃を面積按分した額を減額すること)
④代替手段・代替品の提供(代替手段の提供等により、一部使用不能に

より不便は生じているものの、通常の居住ができない状態とまでは判断

されない場合があること)も挙げられていますので、考慮要素を参考に

して賃借人との協議を行うことも考えられます。国土交通省が公表して

いる「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集〈令和3年

3月〉」においても、具体的な対応事例「18事例」が紹介されていますの

で、ご自身に起こったトラブルと近い事例を参考にすることも有益です。

 

3.トラブルが起きた場合の解決方法
「平成30年事例集」で、「一部使用不能を原因とするトラブルの解決方

法」として、最も多いのが「話し合い」(71.6%)であるとのアンケート

結果が公表されており、実務の動向として、多くのトラブルが賃貸人

(または管理会社等)と賃借人との話し合いによって、解決が図られて

いる状況です。(平成30年事例集:賃借物の一部使用不能による賃料の

減額等に係る実務の傾向)
なお、紛争防止の観点からは、賃貸借契約書において、一部減額に相当

する事由があった場合は、賃借人が賃貸人に通知し、賃料について協議し、

適正な減額割合・減額期間・減額方法等を協議する旨の条項を入れておく
ことが望ましいと考えられます。

 

みらい総合法律事務所 弁護士 岩崎 真一 氏

at home TIME 2024年2月より抜粋