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不動産業界における2024年問題 2024年4月号
2024.09.12
この2024年問題は、不動産分野に関わることとしては、建築従事者の労働時間
の規制による人件費の上昇や、建築資材等を運搬するドライバーの労働時間規制※
に伴う運送費の上昇などにより、建築費関連が高騰するという問題です。
すでに5年前から予測されていたので、かなりこの問題への回避努力は講じられ
ているようですが、「如何ともしがたい」状況を脱せないことになりそうです。
2019年4月1日から「働き方改革関連法」が施行され、我が国において「労働環境
の抜本的な改革」が進められています。長時間労働の是正、正規雇用・非正規雇用
間における公正かつ公平な待遇、女性の社会進出の促進、高齢者の定年後の就業
促進などがその柱となっています。
しかし、この時点での適用が困難な、建設関連・ドライバーなど運送関連・医師
等については、施行まで5年間の猶予が与えられ、その期限を2024年3月末に迎え
ます。2024年4月以降開始されるのが、建設業では、例えば工期に間に合わせよう
として起こりがちな時間外労働の規制です。
また、間接的に関係するドライバーなどの労働時間も制限されます。
建築工事費の上昇は2021年半ばから顕著となり、それは当時「ウッドショック」
などと言われる建築資材費の上昇によるものでした。
しかし、2023年に入ると、高止まりは続くものの上昇は止まりかけていましたが、
ここにきて再び上昇ムードに転じています。
その要因として考えられることは、円安が続いていることで海外から輸入する資材
費の高止まりが続いていること、また建築現場まで資材を運ぶ物流従事者(ドライ
バーなど)の慢性的な不足を解消するべく、人件費が大きく上昇していることです。
さらにドライバーの労働時間(残業時間)の上限の適用に対応するべき人員増が、
人手不足をより深刻にし、これらが今後相乗的に人件費の上昇を加速しかねません。
建築労働人件費上昇と不動産価格への影響
建設関連における労働人件費の上昇の背景には、「新型コロナウイルスの影響で入
国が難しくなったこと、円安により日本で働くうま味が減ったこと等の事由により、
海外からの働き手が不足していること」がこれまで指摘されていました。
ここに加えて建設従事者に対してもドライバーと同様、「時間外労働の上限」などが
施行されることで、現行よりも1人当たりの労働時間を短くせざるをえない上に、必
要とされる人材の確保をスムーズに実現するため、人員増と労働単価向上による総量
としての人件費増大の可能性が高まっています。
これが「建設業界の2024年問題」の最大のポイントです。
2024年4月に控えた「働き方改革関連法」の建設業への適用は、建設会社にとって喫
緊の大きな課題となっています。これまで常態化していたと言われる、建設業におけ
る残業に、他業界と同じように「月45時間、年360時間」の上限が設けられます。
建設業従事者にとっては、勤務環境が改善される兆しになりそうな反面、その一方で
DX推進や機械化等の企業努力が行われたとしても、生産性の向上はすぐに進むわけ
ではありません。
残業が減少する分、先立っては納期や人件費に大きな影響が出てくると見られます。
適用前でさえ、建設業界における深刻な人手不足は慢性化しているので、建築労働
人件費は、よほど需要が落ち込まないかぎり、長期的に高止まりすると思われます。
そしてその高騰は、建築関連費全体を押し上げることにもなります。
そしてここまで検証してきたように、この建築関連費の上昇はまだまだこれからが
本番で、しばらくの間、「いまが、工事費の最安値」で明日にはもう上がっていると
いう現象を起こす危険性は極めて高いと思われます。
新築分譲マンションの価格上昇にともない、中古マンション価格も上昇しています。
新築物件価格の上昇は、少なくともしばらくは継続することは確実で、同様に中古
物件価格も高止まりし続けると思われます。
※労働基準法の改正により、時間外労働の上限が法律に規定され、2019年4月
(中小企業は2020年4月)から適用されています。
ドライバーに関しては、特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働
の上限が960時間です。
※勤務時間インターバル制度を導入し、終業から始業までの休息時間は原則として
9時間以上を確保することが求められています。
吉崎 誠二
不動産エコノミスト・不動産企業コンサルタント
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
HPより