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民法改正 2020年4月号
2020.08.26
2020年4月に民法の一部に改正がまされ施行されました。
改正に伴い賃貸借契約にどのような影響があったのかご紹介します。
①賃貸借終了時の敷金ルールの明確化
賃貸借契約のトラブルの中でも多い「敷金」について、改正民法では定義を明記
して敷金の返還時期、返還範囲に関するルールが明確になりました。
敷金とは『入居者が賃貸していた部屋を退去する際の原状回復工事や滞納がある
場合に充てられる費用として、入居時に預けるお金。原状回復工事に関しては
経年変化以外での損傷を修繕することに使われ、残りがある場合は返還される』
と定義し明記されました。
借主が負う原状回復義務について、「通常損耗」や「経年変化」による部分に
ついてはその義務を負わないというルールが明記されました。
以前までは原状回復義務の範囲について定めた条文がなかったため、従来から
トラブルの原因となっていました。そこで東京ルールと言われていた『現状
回復をめぐるトラブルとガイドライン』を基に条文化しております。
敷金の返還にもかかわる部分ですので、どのような損耗・変化がそのケース
にあたるのかチェックしておくことが大事です。
➁賃貸不動産が譲渡された場合の明確化
貸主AがCに賃貸物件を譲渡した場合、借主Bは新借主のCに家賃を支払うこと
が明文化されました。
オーナーチェンジの際に家賃の支払先が明確化されたことは、借主にとって安心
できる改正といえます。ただし、Cが家賃を受け取るにはAからCへ不動産移転
登記が必要です。譲渡を受けたら早めに移転登記を済ませましょう。
③修繕についての義務の明確化
今回の改正では貸主の修繕義務と借主の修繕義務の範囲が明確化されました。
前者は貸主が物件を貸すときにはしっかり修繕して貸し出す義務を負い、後者は
借主が壊したり汚した部分は自分で修繕する義務を負うものです。
入居者の過失や故意によって故障や不具合が発生した場合は、オーナーと入居者、
どちらに修繕義務が発生するか、ルールが明確になっていませんでした。
そのため、これまでは修繕が原因でトラブルに発展するケースもあったのです。
そこで、改正民法では入居者側の責任で修繕が必要となったときには、オーナー
に修繕の義務はないことが明文化されました。
もう一つ民法に加わったのは、入居者の権利についてです。たとえば、備え付け
のエアコンが壊れたときに入居者は、オーナーに対して修理を依頼します。従来
は修理を依頼しているにもかかわらずオーナーがなかなか修理してくれずにトラ
ブルに発展してしまうケースもありました。建物や設備は、あくまでもオーナー
のものですから入居者が勝手に直したり手を加えたりすることはできません。
しかし、実際に住んでいる入居者にとって、「エアコンなどの設備が壊れて使え
ない」という状況は大きな問題です。改正前の民法では、このような状況になっ
たとき「入居者が自分で修繕できるかどうか」を定めた規定はありませんでした。
しかし、今回の民法改正で下記の場合は、「入居者が自分の判断で修繕をしても
いい」ということが記載されたのです。
・借主が貸主に修繕の必要があることを通知したか、または貸主がそのことを
知ったにもかかわらず、貸主が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
・急な事情のあるとき
たしかに、「夜間にトイレが壊れて使えない」などの急な事情があるときには、
管理会社やオーナーに連絡をし、修理業者への手配までしていたら大変です。
そんなときには、「自分で修理業者を呼んで後からオーナーに請求する」という
やり方ができることになったわけです。
しかし、この改正によって新たなトラブルが発生する可能性もあります。
なぜなら、入居者の判断で修理してもいい範囲や、緊急性の有無、費用負担など
があいまいだからです。たとえば、本当は設備が壊れたのが昼間なのに、入居者
の都合で土日の夜中に修理業者を呼んで、高額な割増料金が発生してしまうとい
うことがあるかもしれません。また、修理すれば使えるものを入居者の勝手な
判断で新品に交換してしまったり、雨漏りの修繕や耐震補強工事のような高額
な工事の依頼をされてしまうケースも考えられます。
トラブル防止のため契約書のなかで明文化することが大事です。
たとえば、修繕の範囲について「どこまでがオーナーの義務になるのか」を明確
にし、「小さな修繕は入居者の負担で対応する」といった一文を、金額とともに
契約書の中に盛り込むようにすると良いでしょう。特に小修繕は記載しておかない
と国土交通省の民法改正に対応した改訂版の賃貸住宅標準契約書では室内の蛍光灯
やパッキン交換等まで貸主に修繕を請求できるとされています。
④連帯保証人の責任範囲と限度額の明確化
改正民法で連帯保証人の責任範囲と限度額が明確化されたことは大きいといえます。
連帯保証人が責任を負う範囲は「債務の元本」「債務に関する利息」「違約金」
「損害賠償」「その他に発生する債務」で、あらかじめ決められた極度額を限度と
するように定められています。さらに連帯保証人の限度額を契約書に記載するように
定められたのも画期的といえるでしょう。
連帯保証人になった人は、その借主(債務者)が家賃等の支払いをしなかった場合、
肩代わりしなければなりません。
もし、支払わない場合は、不動産や給与、預貯金が差し押さえられることもあります。
オーナーからすれば、連帯保証人がいることによって回収リスクが保全されるため、
安心して賃貸借契約を結ぶことができます。
万が一、「家賃の滞納」「部屋で亡くなる」などの不測の事態が発生した場合でも、
連帯保証人に請求することができます。ちなみに、通常の保証契約とは異なり、
連帯保証契約の場合は、借主に財産があるかどうかにかかわらず、連帯保証人に
支払いを求めることができます。その点、借主と連帯保証人は、一蓮托生のような
関係になるということです。
保証契約の部分に関していえば、とくに「極度額の明記」「情報提供義務の創設」
という2つのポイントに注意が必要です。
極度額の明記が義務化:保証人となる時点において、どのくらいの債務が発生する
のかはっきりしない場合、保証人は、一定の範囲に属する不特定多数の債務を保証
することになります。これが「根保証契約」です。
賃貸物件の賃借に関する賃料などの連帯保証人は、この根保証契約を結んでいるこ
とが多いでしょう。とくに、今回の改正では、根保証契約において極度額(上限)
を定めることが義務化されました。
この改正は連帯保証人の保護を目的としているため、極度額が明記されていない
根保証契約は無効となります。
極度額は100万円とする」と具体的な金額がわかるように明記をする必要があります。
国土交通省のHPに民法改正に対応した改訂版の賃貸住宅標準契約書がアップされて
いますので、それを参考にしましょう。
情報提供義務の新設:たとえば、主債務者の財産や収支の状況、その他の債務や履行
状況、さらには分割金の支払いを遅延した場合に発生する「期限の利益の喪失」につ
いても通知されることとなりました。今後、連帯保証人からこれらの状況等について
問い合わせがあった場合には、必ず情報を提供しなければいけなくなりました。
この規定により、保証人は遅延損害金の額が大きくふくらむ前に対処することが可能
となります。オーナーがこの義務を怠った場合の規定はありませんが、法の一般原則
に従い、義務を怠ったことによって保証人に生じた損害がある場合には、生じた損害
の賠償を請求されてしまう可能性があります。
連帯保証人のあり方が大きく変わります。連帯保証人の保護が強化される半面、これ
からは連帯保証人を頼みづらくなることが考えられます。
最近では様々なリスクが回避できて家賃も保証されるため、保証会社を上手に活用す
ることが当たり前になってきています。
また、すでに保証契約を結んでいる方は、更新のタイミングにおいて、保証会社に
変更するというケースも増えてきているようです。
とくに、更新時に契約書を作成し、連帯保証人に署名捺印をしてもらう場合には、
改正後の民法が適用されるため注意が必要です。
極度額が明記されていないと、保証契約そのものが無効になってしまいます。
保証会社の活用を模索するなど、中長期的な視点での対策を検討しておきましょう。
⑤設備の一部滅失による賃料減額の厳格化
以前も建物の設備あるいは屋根などの建物の一部が故障・破損した場合には、借主
は貸主に賃料の減額を請求することができると規定されていました。
今後は、賃料減額についての規定が厳格化され、使用できなくなった部分の割合に
応じて、当然に賃料は減額される、と変更されます。
そのためオーナーは、故障・破損を借主が発見した場合の通知義務、減額の割合や
期間について、あらかじめ確認しておくべきでしょう。
また、故障・破損が発生した際には、まずは早急に、誠心誠意対応して借主との信
頼関係を構築し、減額請求に至らないよう努めることが大切です。
「減額請求できる」とされていたものが、改正民法では「当然に減額される」という、
よりシビアな表現に変わりました。
オーナーにとっては、少し緊張感を覚える改正といえるのではないでしょうか。
しかし、改正民法において「どのくらい壊れたらどのくらいまで減額するか」につい
て明確に規定しているわけではありません。
国土交通省の主催する「賃貸借トラブルに係る相談対応研究会」が発表した「民間
賃貸住宅に関する相談対応事例集」によれば、一部使用不能の状態について下記の
ように解釈しています。
・物件の物理的な破損だけではなく、設備の機能的な不具合なども含めて、
物件の一部が使用できない
・その一部使用不能の程度が、社会通念上の受忍限度(社会生活を営む上で、
我慢するべき限度)を超えて通常の居住ができなくなった
「社会通念上の受忍限度」とはどんなものか、判断はなかなか難しいものがあります。
なかには悪質な借主がいて、「設備の一部が壊れたことを理由に何度も賃料減額を求
めてられてきて困ってしまう」といったことも想定されるでしょう。
さらに一部使用不能となった物件の修繕について、オーナーが誠実に対応したとし
ても、修理業者の状況によっては速やかに修理ができないといった問題も考えられ
ます。改正民法の施行を機に、賃料減額に関するさまざまなトラブルが起こるかも
しれません。
トラブルに発展しないようにするためには、設備などの使用不能な期間、使用不能
の程度、使用不能な免責、代替手段・代替品の提供などについて、特約として契約
書に盛り込んでおくことが考えられます。たとえば、公益財団法人日本賃貸住宅管
理協会では、賃料減額についての特約として以下のようなガイドラインを作成し、
賃料減額と免責日数の具体的な数字を決めています。
このようなガイドラインを参考にするのもよいでしょう。
また、実際の賃料減額の協議・決定にあたっては借主からオーナーに壊れている
旨を通知します。そのうえで、減額の割合や期間(一定期間の免除とするのか、
賃料そのものを変更するか)について協議して、合意のうえで減額を決定するの
が一般的な流れになるでしょう。したがって、設備の故障などが発生したときは
、まずは早急に、誠心誠意対応することが重要です。
賃貸経営において③~⑤の内容は大きな影響を与えます。
内容を正確に理解し、対応対策を検討して下さい。